「もう、職場の人間関係に疲れた」——そう感じながら、今日も出勤の準備をしている方へ。その気持ちは、あなたの我慢が足りないからでも、あなたの性格に問題があるからでもありません。この記事では、公的な調査データと、介護現場と採用の両方を経験したキャリアアドバイザーの視点から、「なぜこうなるのか」「今日から何ができるか」「職場を変えるとしたら何を見ればいいか」を整理します。
結論:人間関係がつらくて辞めたいのは、「甘え」ではありません
先に結論からお伝えします。
- 介護の仕事を辞めた人の離職理由で最も多いのが「職場の人間関係に問題があったため」(24.7%)です。
- さらに、その人たちに具体的な内容を聞くと、約半数(49.1%)が「上司や先輩からの指導や言動がきつかったり、パワーハラスメントがあった」と答えています。
- つまり、人間関係のつらさの中心にあるのは個人同士の相性ではなく、職場の指導のあり方や管理体制の問題であることが、データからうかがえます。
「自分がもっとうまく立ち回れば」と考えてしまう方は少なくありません。けれど、同じことで悩み、実際に職場を離れている人が最も多い——それが調査に表れている事実です。まずは、あなたが感じている疲れは珍しいものではない、というところから始めさせてください。
出典:公益財団法人 介護労働安定センター「令和6年度 介護労働実態調査」(2025年7月28日公表)
なぜ介護の職場は、人間関係がこじれやすいのか
介護現場の人間関係が難しくなりやすいのには、その職場ならではの構造的な理由があります。「自分だけがうまくやれていない」と感じている方ほど、ここを知っておくと少し肩の力が抜けるはずです。
1. 立場も専門も違う人が、同じ利用者さんを見ている
介護職・看護職・リハビリ専門職・ケアマネジャー・生活相談員。それぞれ専門とする視点が違うため、同じ場面を見ても「どうするのが正解か」の判断が分かれます。ケアの方針をめぐる対立は、実は専門性の違いから自然に生まれるもので、誰かが悪いわけではないケースが多くあります。
2. 年齢・経歴の幅が、他業種と比べて極端に広い
10代の新人と60代のベテランが同じシフトに入る。異業種から転職してきた人と、介護一筋20年の人が並んで働く。価値観や仕事の進め方の前提が揃っていないため、「言わなくても伝わる」が成立しにくい環境です。
3. 人手不足で、お互いに余裕がない
同じ調査で、労働条件等についての悩みの1位は「人手が足りない」(49.1%)でした。人が足りない現場では、休憩が取れず、確認する時間もなく、心に余白がなくなります。余裕のなさは、そのまま言葉のきつさになって表れます。相手の人格ではなく、人員体制が言わせている言葉だった、ということも珍しくありません。
4. 固定メンバーで、閉じた空間で働く
担当フロアや事業所という限られた空間で、ほぼ同じ顔ぶれと長時間過ごします。いったん関係がこじれると、逃げ場がなく、気まずさが毎日更新されていきます。
5. シフト制で「教える人」が変わる
24時間体制の職場では、日によって指導してくれる先輩が変わります。「昨日A先輩に教わったやり方でやったら、今日B先輩に注意された」。これは新人の方が最も消耗しやすいポイントですが、原因は職場の手順が標準化されていないことにあります。
「疲れた」が危険なサインに変わっていないか、確認してみてください
疲れには、休めば戻るものと、そうでないものがあります。次のような状態が2週間以上続いている場合は、無理を重ねる前に立ち止まってほしいサインです。
- 職場のことを考えると、夜眠れない・朝早く目が覚めてしまう
- 出勤前に動悸がする、涙が出る、体が動かない
- 食欲が落ちた、または過食が続いている
- 休日も仕事のことが頭から離れず、休んだ感じがしない
- 特定の人の足音や声を聞くだけで体がこわばる
- 以前はできていたミスの少ない作業で、ミスが増えた
- 「自分は価値がない」と考える時間が増えた
- お酒や市販薬の量が増えた
いくつも当てはまる場合、それは気持ちの問題ではなく、心身が限界を知らせている状態かもしれません。医療機関への相談も選択肢に入れてください。厚生労働省の働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」では、電話・SNSでの相談窓口が案内されています。
※このチェックは医学的な診断ではありません。心身の不調が続く場合は、医療機関にご相談ください。
今日からできる、心を削らないための3つ
1. 「自分の課題」と「相手の課題」を分ける
あなたが変えられるのは、あなたの行動だけです。相手が不機嫌であること、悪口を言うこと、指導の仕方を改めないこと——これらは相手の課題であり、あなたが引き受ける必要はありません。「私が何かしたのかな」と考え始めたら、「それは相手の課題だ」と一度だけ心の中で言い直す。これだけでも消耗はかなり変わります。
2. 事実を記録に残す
いつ・どこで・誰が・何を言ったか。日付とあわせてメモに残してください。感情ではなく事実だけで構いません。記録には2つの効果があります。ひとつは、「気のせいかもしれない」と自分を疑わなくて済むこと。もうひとつは、後で上司や公的窓口に相談するときに、状況を正確に説明できる材料になることです。
3. 職場の外に、話せる相手を持つ
同じ職場の人に相談すると、その話が回ってさらに立場が悪くなることがあります。家族・友人のほか、次章の公的窓口や、介護職の事情を知っている第三者など、利害関係のない相手を確保しておくと、判断を誤りにくくなります。
それでも変わらないときの、公的な相談窓口
職場に相談しても改善しない、あるいは相談自体が難しい場合は、外部の窓口を使ってください。いずれも無料で利用できます。
- 総合労働相談コーナー(各都道府県労働局):パワーハラスメント、いじめ・嫌がらせ、労働条件の相談を、専門の相談員が無料・予約不要で受け付けています。愛知・岐阜・静岡それぞれの労働局にも設置されています。
- こころの耳(厚生労働省):働く人のメンタルヘルス相談。電話・メール・SNSに対応しています。
- 職場のハラスメント相談窓口:一定規模以上の事業所には、ハラスメント相談窓口の設置が義務づけられています。就業規則や掲示を確認してみてください。
【採用する側から見た】人間関係が壊れている職場に共通するサイン
ここからは、介護現場と採用の両方を経験したキャリアアドバイザーの視点でお伝えします。求人を出す側・面接する側に立つと、働く前から見えてしまうサインがあります。
サイン1:同じポジションの募集が、途切れずに出続けている
人が増えているから募集しているのか、辞めた分を埋めているのか。同じ施設の同じ職種の求人が何か月も出続けている場合、後者の可能性を考えます。求人サイトで施設名を検索し、掲載がいつから続いているかを見てみてください。
サイン2:見学や面接で、現場の職員に会わせてもらえない
採用担当や施設長としか話せず、実際に働くフロアを見せてもらえない場合は注意が必要です。自信のある職場ほど、現場を見せたがります。「働くフロアを見学させてください」と言えるかどうかは、良い判断材料になります。
サイン3:離職理由を聞いたとき、答えが「本人の問題」で終わる
「前の人はどうして辞められたんですか」という質問への答え方に、その職場の体質が出ます。「合わなかったんでしょうね」「今の若い人は続かなくて」と個人の資質の話で終わる職場は、辞めた原因を職場側の課題として捉えていない可能性があります。
サイン4:見学中、職員同士の会話と、利用者さんへの言葉づかい
職員同士が業務連絡以外で言葉を交わしているか。指示の出し方は一方通行になっていないか。そして、利用者さんへの声かけが丁寧か。利用者さんへの接し方は、職員同士の接し方とほぼ一致します。
サイン5:シフト・有給・残業の質問に、はっきり答えない
「希望休はどのくらい通りますか」「有給の取得率はどのくらいですか」——この質問に具体的な数字や運用の説明が返ってこない場合、実態が説明できない状態にあることが多いです。答えにくそうにする様子そのものが答えになります。
見学・面接で確認したいチェックポイント
| 確認すること | 安心できる兆候 | 気をつけたい兆候 |
|---|---|---|
| 現場の見学 | フロアを見せてくれる/働く職員と話せる | 応接室のみ/見学を断られる |
| 前任者の退職理由 | 職場側の課題として説明がある | 個人の資質の話で終わる |
| 指導体制 | 手順書がある/教育担当が決まっている | 「見て覚えて」/日によって教え方が違う |
| 希望休・有給 | 取得率や運用を具体的に説明できる | 「相談次第」で終わる |
| 職員の年齢構成・勤続年数 | 長く働いている人が複数いる | ほとんどが入職1年未満 |
| 利用者さんへの声かけ | 名前を呼び、目線を合わせている | 指示的・事務的な声かけが目立つ |
| 職員同士の会話 | 業務外の会話や笑いがある | 私語がなく空気が張りつめている |
施設形態によって、人間関係の「こじれ方」の傾向は変わります
どの形態が良い・悪いということではなく、関わる人の数と距離の近さが違うため、起きやすいことが変わります。ご自身が何に消耗しているのかを整理する参考にしてください。
| 施設形態 | 関わる人の特徴 | 起きやすい傾向 |
|---|---|---|
| 特養(特別養護老人ホーム) | 職員数が多く、多職種・夜勤あり | 職員数が多いぶん派閥ができやすい。一方で相談できる相手も見つけやすい |
| 老健(介護老人保健施設) | 看護・リハビリ職の比率が高い | 専門職間で方針が分かれやすい。多職種の調整力が問われる |
| デイサービス | 少人数・日勤中心・利用者さんと会話が多い | チームが小さいぶん、相性の影響が直接的に出やすい |
| グループホーム | ごく少人数のユニットで固定的 | 合う人といれば働きやすい。合わないと逃げ場が少ない |
| 訪問介護 | 基本的に1対1、職員同士の接触が少ない | 職員間の摩擦は少ない一方、利用者さん・ご家族との関係が直接的で孤立しやすい |
| 有料老人ホーム | 施設によって方針・体制の差が大きい | 運営方針への納得感が働きやすさを左右しやすい |
※あくまで傾向であり、同じ形態でも施設によって状況は大きく異なります。
「介護はどこも同じ」ではない、というデータ
ここまで読んで、「でも転職しても同じでは」と感じた方もいると思います。ただ、同じ調査には、こんな結果も出ています。
- 現在の仕事の満足度を示す満足度D.I.(「満足」+「やや満足」から「不満足」+「やや不満足」を差し引いた指標)で、「職場の人間関係」は+32.4と、全項目の中で最も高いプラスでした。次いで「仕事の内容」が+28.2です。
- 一方、マイナスが大きかったのは「人員配置体制」(▲21.3)、「休憩室などの付帯設備」(▲15.3)、「賃金水準」(▲14.3)でした。
- 事業所側も、72.0%が「人間関係の良好な職場づくり」に取り組んでいると回答しています。
離職理由の1位が人間関係である一方で、いま働いている人の満足度では人間関係が最もプラスに振れている。この2つは矛盾しているようで、「人間関係が良い職場と、そうでない職場の差がはっきり分かれている」ことを示しています。つまり、あなたが今つらいのは介護という仕事そのものではなく、その職場の環境である可能性が高いということです。
また、介護職員と訪問介護員を合わせた離職率は12.4%と2年連続で低下する一方、従業員が不足していると答えた事業所は65.2%にのぼります。人を求めている職場は多く、選択肢を比べながら動きやすい状況です。
出典:公益財団法人 介護労働安定センター「令和6年度 介護労働実態調査」(2025年7月28日公表)
まとめ
- 人間関係を理由に介護の仕事を辞めた人は最も多く(24.7%)、その約半数(49.1%)が上司・先輩の言動やパワハラを挙げています。あなたの我慢が足りないわけではありません。
- 介護現場の人間関係がこじれやすいのは、多職種・年齢層の広さ・人手不足・閉じた空間・シフト制という構造的な理由があります。
- 眠れない、涙が出る、動悸がするなどが2週間以上続くときは、医療機関や「こころの耳」などの公的窓口に相談してください。
- 職場を変えるなら、見学時の職員同士の会話、前任者の退職理由の説明のされ方、有給・希望休への答え方を見てください。
- 在職者の満足度では「職場の人間関係」が最も高いプラス(+32.4)です。職場によって差がはっきりある以上、環境を変えることには意味があります。





