朝、起き上がるのがつらい。コルセットが手放せない。「介護をしていれば腰は痛くなるもの」——現場ではそう言われがちですが、国の指針はまったく違うことを示しています。この記事では、腰痛が限界に近い方に向けて、制度上の事実と、職場を選び直すときの具体的な基準をお伝えします。
結論:国の指針は「人力による抱え上げは原則行わせない」としています
まず知っておいてほしい事実があります。
厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年6月改訂)では、腰部に著しく負担がかかる移乗介助等について、リフト等の福祉用具を積極的に使用することとし、原則として人力による人の抱え上げは行わせないとされています。この改訂で、指針の適用範囲は福祉・医療分野の介護・看護作業全般に広げられました。
つまり、「腰は鍛えるもの」「抱えられないのは力不足」という考え方は、国の示す方針とは異なります。抱え上げを前提に業務が組まれている職場は、指針が想定している形になっていない、ということです。
出典:厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年6月改訂)
介護職の腰痛は、業種として突出しています
これは根性の問題ではありません。数字にも表れています。
- 社会福祉施設や医療保健業を含む保健衛生業の腰痛発生率(死傷年千人率)は0.25で、全業種平均の0.1を大幅に上回ります。
- 職場の腰痛発生件数は昭和53年をピークに長期的には減少したものの、保健衛生業では集計を開始した平成5年以降、増加を続けています。
他の業種で減っているものが、介護・看護の現場では増え続けている。個人ではなく、作業のやり方の問題として扱われるべき数字です。
出典:厚生労働省「腰痛予防対策」
限界のサインと、受診の目安
次のような状態があるときは、我慢を続けないでください。
- 痛みで夜中に目が覚める
- 足のしびれや、力が入りにくい感じがある
- コルセットなしでは勤務できない状態が続いている
- 痛み止めを常用している
- 座っていても、立っていてもつらい
- 排尿・排便に違和感がある
しびれや脱力、排尿・排便の違和感がある場合は、早めに整形外科を受診してください。これらは、腰の負担だけでは説明できない状態のことがあります。
※この記事は医学的な診断を行うものではありません。症状がある場合は医療機関にご相談ください。
いまの職場でできること
1. 福祉用具の導入を、指針を根拠にして相談する
「腰が痛いので」ではなく、「厚生労働省の腰痛予防対策指針では、移乗介助にリフト等の使用を求めています」と伝えると、話の性質が変わります。個人の訴えではなく、労働衛生の課題として扱われます。
2. スライディングシート・ボードから始める
リフトの導入は費用も設置場所も必要ですが、スライディングシートやスライディングボードは比較的導入しやすい用具です。ベッド上での移動や、ベッドと車いすの間の移乗で負担を減らせます。
3. 記録を残す
いつから、どの作業で、どのくらい痛むのか。受診したなら診断書も保管してください。配置転換を相談するときにも、後述する制度を使うときにも材料になります。
4. 業務内容の変更を相談する
入浴介助や移乗の多い担当から外してもらう、フロアを変えてもらう。事業主には労働者の健康に配慮する義務があります。
受診の記録は、残しておいてください
痛みを我慢して受診しないままにしている方は少なくありません。ですが、記録がないと配置転換を相談するときにも、業務内容の見直しを求めるときにも、根拠を示せません。
いつから、どの作業で、どのくらい痛むのか。受診したなら、その記録も残しておいてください。これはあなたの体を守るための材料であると同時に、職場に働きかけるための材料にもなります。
【採用する側から見た】腰を守れる職場の見分け方
介護現場と採用の両方を経験したキャリアアドバイザーの視点でお伝えします。求人票からは読み取れない部分なので、見学と面接で確認してください。
| 確認すること | 安心できる答え・様子 | 気をつけたい答え・様子 |
|---|---|---|
| 移乗介助にリフトやスライディングシートを使っていますか | 使用している。実物を見せてもらえる | 「基本は人力です」「あるけど使っていません」 |
| 用具は何台あって、どこに置いていますか | 台数と設置場所が具体的 | 倉庫にしまわれている |
| 移乗は何人で行いますか | 2人介助の基準が決まっている | 「その時いる人数で」 |
| 腰痛予防の研修はありますか | 実施している | 実施していない |
| 腰を痛めた職員への対応 | 配置転換の実績がある | 「辞めていきましたね」 |
用具があるかどうかより、日常的に使われているかどうかが本質です。「導入しています」と言われたら、「実際にどの場面で使っていますか」と重ねて聞いてみてください。
身体負担の少ない働き方という選択肢
介護の中でも、身体的な負担は形態によって大きく変わります。
- デイサービス:日勤中心で夜勤がなく、自立度の高い利用者さんが多い傾向があります
- グループホーム:少人数で、生活支援の比重が高い傾向があります
- 訪問介護:1対1で自分のペースを保ちやすい一方、環境が家庭ごとに異なります
- 生活相談員・介護事務:身体介助から離れつつ、経験を活かせます
※いずれも傾向であり、同じ形態でも事業所によって状況は異なります。
まとめ
- 国の指針は、移乗介助についてリフト等の使用を求め、人力による抱え上げは原則行わせないとしています。腰痛は根性の問題ではありません。
- 保健衛生業の腰痛発生率は0.25で全業種平均0.1を大幅に上回り、平成5年以降増加を続けています。
- しびれ・脱力・排尿排便の違和感があるときは、早めに整形外科を受診してください。
- 職場には、指針を根拠に福祉用具の導入や業務変更を相談できます。記録と受診の記録を残してください。
- 職場を選ぶときは、用具が「あるか」ではなく「日常的に使われているか」を確認してください。


